『看護がみえる』編集部は,2019年までに看護技術・フィジカルアセスメントを解説したvol.1〜3を発行しました.これらは,看護を行ううえで必須である具体的な看護技術を解説した書籍です.しかし,看護技術は看護を提供するための1つの手段に過ぎません.看護技術という手段を適切に使うためには,個別性への配慮や状況判断など,看護の専門的な思考が必要になります.それを担うのが本書『看護がみえるvol.4 看護過程の展開』で解説している看護過程です.本書の制作にあたり,まず私たちは数々の学校の看護教員の先生方や看護学生さんたちへのヒアリング調査を行いました.そこでわかったのは,多くの先生方が看護過程の教え方に悩んでいること,また多くの看護学生が看護過程の習得に苦手意識をもっているということです.その原因を探るべく私たちが次に行ったのは,既存の解説書,教科書,論文でどのように看護過程が説明されているかの徹底的な研究でした.そして,おそらく多くの看護学生と同じように「看護過程の定義や展開方法がよくわからない」という壁にぶち当たりました.しかし,様々な解説書を読みながら看護過程に向き合う内に「なぜ看護過程が理解しにくいのか」が少しずつみえてきました.看護過程とひとことで言っても,実はその中身は複数の思考と行動で構成されています.つまり,看護過程を理解するためには,それを構成する中身を1つずつ理解するしかありません.しかし,ここで問題が立ちはだかります.その問題とは「看護過程を説明するために使われる言葉の定義が曖昧」ということです.例えば「アセスメントとは解釈,分析,判断することです」という解説はどんな解説書でもみられます.では,解釈とは「何をどのようにすること」なのでしょうか?「解釈」という言葉は,一般的な会話で使われる言葉なので,一見すると平易でわかりやすい説明に思えます.しかし,アセスメントにおける「解釈」は明らかに,専門用語としての意味をもっています.にもかかわらず,その定義が曖昧なまま話が進んでいくと,初学者は置いてけぼりになってしまうのです.このような状況を打開すべく,本書では1つずつ理解を積み上げていけるように,曖昧な看護過程の思考と行動を細かく分解し,定義づけ,名前をつけるところから始めました.例えば,アセスメントは“データ収集〔p.70〕”と“「人間の反応」の理解〔p.84〕”の2つに分解し,“「人間の反応」の理解”はさらに細かく6つの思考プロセス〔p.85〕に分解して解説しています.本書を読むことで1つ1つのプロセスが明確になれば,看護過程の全体像が見えてきます.そうすれば「自分はどのプロセスがわからない」という視点をもつことができ,学習の方向性が明確になるはずです.まずは,概論で看護過程の展開方法を把握してみてください.この章では,どんな患者さんでもどんな状況でも看護過程を展開できる再現性のある方法を示しました.概論の内容が理解できれば実習でも臨床でも迷うことはなくなるでしょう.次に事例でその具体的な使い方を確認してみてください.能力のある看護師なら一瞬で行うことのできる思考,しかし初学者にとっては理解しにくい思考,その詳細な過程を1つずつ具体的に確認することができます.看護過程は,専門的な看護の考え方や判断を導くための問題解決過程です.教育カリキュラムの中に,ここまで完成された問題解決過程を取り入れている職種は看護師以外には存在しません.これは偉大なる看護の先人たちが,看護師を専門職としての高みに引き上げるために積み上げた努力の結晶であり誇りです.看護過程を正しく展開する力と専門職としてのプライドを持ち合わせた看護師の育成に,本書が少しでも寄与できれば幸いです.最後になりましたが,的確なご指導とアドバイスで,編集部メンバーを導いてくださった監修の永田明先生と石川ふみよ先生に心より感謝申し上げます.2020年5月吉日編集者一同Visual Guide to Nursingはじめに
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