看みえ5PDFから
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ii本書を企画するにあたり,『看護がみえる』シリーズがこれまで看護におけるどの部分をカバーしているのかを振り返ってみました.『看護がみえるvol.1基礎看護技術(以下,看みえ①)』と『同 vol.2臨床看護技術(以下,看みえ②)』は看護技術を解説しており,看護介入という看護のアウトプットに焦点が当たっています.『同 vol.3フィジカルアセスメント(以下,看みえ③)』も技術解説でありアウトプットの側面がある一方で,身体的な情報を収集するというインプットの側面もあります.当然のことながらこれら3冊で示したアウトプットとインプットだけで,看護の全てを語ることはできません.なぜなら,これらは看護実践の大きな流れにおいて,1つの点でしかないからです.『同 vol.4看護過程の展開(以下,看みえ④)』では,この看護実践の大きな流れを解説しています.インプットされた情報をもとに,看護の思考を展開して看護介入というアウトプットを行い,結果を評価することでまたインプットするという看護の思考と行動の過程,つまり看護過程です.この思考と行動の方法論は,どのような対象にも共通して使用できる抽象度で解説しています.そのため『看みえ④』は看護行為の全体を俯瞰することができます.しかし,実際に看護を行う場合には,『看みえ①〜④』で解説した内容を,対象に合わせて個別的に運用する必要があります.例えば,食事援助の場合,最も基礎的な知識は『看みえ①』で学ぶことができます.そして,実際に看護を提供する前に必要となるアセスメントは『看みえ④』で学ぶことができますが,対象者の特性を理解していないとアセスメントはうまくいきません.対象者が成長期の子どもであれば,しっかり栄養をとる必要がありますが,終末期の人であれば少量でも美味しく食べることが優先されるかもしれません.また,「食べ過ぎる」という問題の原因を考えるとき,対象者が健康な人なら生活環境やストレスなどの影響が考えられますが,副腎皮質ステロイド内服という治療を受けている人であれば副作用の影響も考慮しなければなりません.このように,対象者に合った食事の援助をするためには,特性の理解が不可欠なのです.看護は,そういった対応の連続です.臨床の看護師がこれを実践できるのは,個別性をふまえた「対象の理解」をしているからです.しかも,対象の状態やニーズは日々変化するので,看護師は対象を理解しようとし続ける必要があります.その時その時の対象を,知識に基づいてアセスメントし理解するからこそ,対象のニーズを的確に満たす看護介入ができるのです.そう考えたとき「対象の理解」はまさに看護の本質といえます.では「対象の理解」とは何か.まずは,「看護の対象が何であるか?」を理解すること.この答えを最も端的にいうと「あらゆる個人と集団」です.次に,「看護の対象のどの要素に着目するのか?」を理解すること.本書では,特に重要な要素である「発達段階」「健康状態」「治療」「生活・療養の場」を扱っています.そして,「これらの要素が,対象のどんな特徴やニーズに影響するのか,そこで対象がどんな体験をするのか?」を理解することです.例えば「老年期,慢性期,在宅療養中,術後1ヵ月」という要素をもつ人がどのような特徴やニーズをもっているのかを理解するということが「対象の理解」です.これらを理解するためには,「そもそも発達段階とは何なのか?」という総論の知識や,「慢性期の人はどのような体験をしているのか?」といった各論の具体的な知識も必要になります.とても重要で本質的なことですが,これらが体系立てられた教材は今の日本にはほとんどないと思いました.「看護師が何をすべきか?」について詳しく書かれている書籍はありますが,「対象がどのような体験をしているのか?」についての詳しい記述があるものはとても少ないです.そこで,今回の『看護がみえるvol.5』は テーマを「対象の理解」としたのです.看護の対象は様々です.看護を学ぶ初学者にとっては,馴染みの薄い対象に向き合うことも多いでしょう.そんなときに本書を手にとり「看護の対象」を理解するための最初の手引書にしていただければ幸いです.最後になりましたが,的確なご指導とアドバイスで編集部メンバーを導いてくださった監修の先生方に心より感謝申し上げます.2023年10月吉日 編集者一同看護の本質は「対象の理解」にあるVisual Guide to Nursing

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