看みえ5PDFから
30/48

●共有意思決定(SDM):shared decision making●対象者と医療従事者が情報を共有し,治療の効果や副作用,生活への影響などについて対話しながら合意に至るという方法である.●必ずしも医学的に最善とされる方法を●対話の結果,最終決定を医療従事者に任せるという合意に至る場合もある.●「説明と同意」や「納得診療」と訳される.●1990年代頃,パターナリズムに代わる意思決定スタイルとして注目され,ヘルシンキ宣言〔公p.71〕で定められた.●医師が治療の効果や副作用,選択肢などについて十分説明し,対象者が理解し納得したうえで同意するという方法である.●医師が専制的に判断して決定し,対象●対象者の自己決定権が重視されるようになり,パターナリズムは批判され,インフォームドコンセントが強く求められるようになった.●ただし現在でも,緊急度〔p.300〕が高く,本人の意思が不明で家族などの代理意思決定者にも連絡がとれない場合などには,医師の判断・決定に基づいて治療が行われることもある.●インフォームドコンセントでは,医療従事者が情報を提示し,対象者が同意する.一方,SDMでは,対象者と医療従事者が互いに情報を提供し,対象者が望む生活や治療の選択肢を共有し,対話しながら決定していく.そのため,よりその人らしい生活の実現に向けた意思決定が期待できる.+αもっとわかる!意思決定は,治療方針の決定などのように医師と対象者の間だけで行われるものばかりではありません.例えば,看護師は清拭などの日常的なケアについて対象者に説明し,同意を得ています.「対象者が望むケアのあり方」について対話を重ね,方針を決定していくこともあります.一方で,クライシス局面〔p.321〕などでは,救命が優先され,対話する猶予がない場合もあります.また,対話の結果,対象者が「医療従事者を信頼して決定を委ねる」という意思決定をすることもあります.これは対象者が「やはり自分で決めるのは負担が大きい」「説明は理解したけれど,どうしたらいいかわからない」などと考える場合です.看護師は,対象者の状況や意思決定への考え方などをアセスメントし,その人に合った意思決定を支援する必要があります.また,対象者が疾患や治療について正しく理解して意思決定できるように,対象者のヘルスリテラシー〔p.290〕を高めることも重要です.情報決定権304 時代とともに変化してきた 意思決定のスタイル●日本の医療現場における意思決定のスタイルは,かつてはパターナリズム(父権的意思決定)が中心だった.しかし,1990年代頃からパターナリズムに代わってインフォームドコンセント,2000年代後半からはそれに加えて共有意思決定(SDM)〔p.305〕が注目されるようになっている.●こうした意思決定スタイルの変化の背景には,「対象者の自己決定権を尊重し,対象者と医療従事者の相互参加によって治療方針を決定するべきである」という考えの普及がある.パターナリズム者は医師に従うという方法である.医師情報決定権医師の価値観に基づいて決定■医師は「抗凝固薬を飲んでください」と指示し,患者さんは指示に従って内服を開始した.インフォームドコンセント対象者(十分な説明)理解・納得して決定例例例■医師は「肺塞栓予防のために,抗凝固薬の内服を続けることが効果的である」と説明し,副作用についても説明した.患者さんはその内容を理解し,納得して内服を開始した.共有意思決定(SDM)選択するとは限らない.対話情報決定権十分な対話のもとに決定,もしくは医師に委ねる(その場合,医師は対象者の価値観に基づいて決定)■医師は「肺塞栓予防のためには抗凝固薬の内服が効果的だが,出血しやすくなり,サッカー選手を続けられなくなる」と情報を提供した.患者さんはサッカー選手を続けることを希望し,「内服はせず,肺塞栓リスクが高い飛行機搭乗時だけ注射薬を使用する」という合意に至った.

元のページ  ../index.html#30

このブックを見る