実習中、学生の様子を見に行くと、ナースステーションでひとり退屈そうにしている学生Aがいました。 ツル 「どうしたの? 患者さんのところに行かないの?」 学生A 「え? 実習めんどくさくて……」Aは視線も合わさず答えます。 ツル 「(心の声:めんどくさいって……そんなの患者さんに申し訳ないわ。)じゃあ、帰る?」 学生A 「それもちょっと……」 ツル 「…………。」
Aの受け持ち患者さんは、寝たきりで自発的にお話なさる方ではないけれど、かといって拒否的な態度をとる方でもありません。そしてAは、いつも学校で会うと明るく挨拶してくれるような学生です。 実習では、環境の変化や膨大な調べものにとまどい、気持ちに余裕をもつのが難しくなる学生が多くいます。そのため、これまで見たことのない学生の一面が垣間見えることも……。 私は、Aがどんな気持ちで実習に臨んでいるのかということに思いをめぐらせながら、Aの受け持ち患者さんのもとに伺いました。すると、患者さんは痰が絡んで咳き込んで苦しそうにしていました。その患者さんの痰を取り除くには吸引をする必要があったため、私はすぐに病棟の看護師さんを呼びました。 そして、患者さんの状態が落ち着いたところで、ふと思うことがあり、私はAの元に戻りました。
ツル 「もしかして、患者さんのところに行くのが怖かった?」 学生A 「え?! なんでですか?」 ツル 「私の思い込みだったらごめんね。でも、もし、自分が看護学生で、あなたの受け持ち患者さんのような方と接した経験がなかったとしたら、患者さんが苦しんでいる様子を目の当たりにしたときに、どうしようって怖くなるかもしれないな、と思ったの」 学生A「私…患者さんのこと、怖いなんて言ったらいけないと思って……。患者さんの姿を見て余計怖くなっちゃったらと思うと、お部屋に行こうにも足がすくんで行けなかったんです……」 そう言って、A は泣き出してしまいました。あぁ、そういうことだったのか……。
看護師としての臨床経験がある私は、そのような場面で自分がやるべきことを判断できるので、少なくとも「怖い」とは思いません。でも、仮にそのような場面で「怖い」と思い、その気持ちを誰にも打ち明けられなかったとしたら、誰だってその場から逃げ出したくなると思います。 それでも、Aは真剣に患者さんと向き合おうとしているからこそ、「患者さんが苦しくなったらどうしよう」という不安や逃げ出したい気持ちと葛藤していたのだと思います。 私は、Aの「めんどくさい」という無責任ともとれる言葉の裏に隠れていた、「怖い」という感情に気づいたときに、はじめてA の本当の気持ちを理解することができたと思いました。 その後、私たちは指導ナースとともに患者さんのところへ行き、病態を確認し、「こんな症状が出たらナースコールで看護師を呼ぶ」など、症状出現時の対処の仕方を一緒に考えました。 翌日、ベッドサイドで、笑顔で患者さんに話しかけるAの姿がありました(^^)
※本記事は、弊社発行の無料情報誌『INFORMA for Nurse 2018 春夏号』から文章・画像を転載・引用改変しています。
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