今回は長崎大学 永田明先生に、メディックメディア編集部が看護過程の教育方法における工夫や、実習に参加する学生が看護の喜びの体験ができるための工夫について伺いました。さまざまな工夫で学生をサポートしている永田先生。長崎大学で実際に使われているレポートの一部も見せてくださいました。看護過程の指導で悩まれている看護教員の先生がた、必見のインタビューです!
看護過程の講義は1年次後期に行われていましたが、現2年生から新しいカリキュラムになり、2年次前期に行うことになりました。2年次後期になれば、看護概論、基礎看護技術、発達段階ごとの看護学の概論、病態学などを履修する時期なので、この時期に講義を行ったほうがよいだろうという結論に至りました。 講義では、Ruth Craven著の「Fundamentals of Nursing」の“看護過程”の部分を自分で翻訳しつつレジュメを作成しています。日本の看護書は、看護過程について非常に抽象的なものが多い一方で、この書籍は具体的な方法論が示されている。初学者にとってはやはり抽象的な言葉だけで学ぶのは難しく、具体的に示す必要があると考えています。
ゴードンの機能的健康パターンとNANDA-Iの看護診断です。看護診断を使っているのは、学生に看護に必要な概念形成ができるので、看護問題を学生自身の言葉で表現させるよりメリットがあると考えているからです。共通言語を使わないとなると、学生の個人的関心が問題にあがってしまい、教員と共通言語で話せなくなります。 講義・実習では、ゴードンの「アセスメント覚え書」というポケットブックと、カルペニートの「看護診断ハンドブック」の2冊を学生に持たせます。後者には推奨される看護成果や看護介入が示されているため、ある程度の看護計画をたてられます。また、ゴードンの機能的健康パターンで、看護診断が分類されているので、学生の混乱も防ぐことができます。 一方で、ヘンダーソンの考え方を看護過程では使用していません。看護学概論で看護の歴史上の1人として紹介するだけです。看護実践は科学的でなければなりません。50年前の考え方を未だに使うことが科学として本当に妥当なのか、ということを考えると答えはNOだと思います。
1つは、実習記録フォーマットを授業のなかで紹介し使用することです。本学では、基礎看護学、成人看護学、老年看護学、精神看護学の講義・実習で共通のものを使っています。したがって、領域ごとで改めて記録の書き方を教え直す必要がありません。また、用紙のフォーマットは細かく項目を設けています(以下)。これにより、学生が理解し、積み上げながら看護過程を展開できるだけでなく、学生がどこでつまずいているか教員が把握しやすくなるため、指導しやすいという利点もあります。 2つめは、ゴードンの機能的健康パターンを1年次から徹底的に教えること。1年次前期の看護学概論の講義から、“人間の見方はゴードンの機能的健康パターン”と教えています。フィジカルアセスメントの講義にも機能的健康パターンを使って講義を構成しています。そうすると、これに慣れてくるので、各領域に進んだときには染みついていることを期待しています。このように学習体験として積み上がっているものがあるのは重要だと感じます。また、学習方法が同じであるからこそ領域ごとの看護の視点の違いに気付くことができますしね。
▼長崎大学のレポート用紙の一部 学生が書きやすいように項目が工夫されている。
学生が「あてはまる看護診断がない」というときは、アセスメント不足の可能性がある場合が多いのではないかと思います。看護の焦点となる概念が頭に入って概念形成されていないと、学生が患者の情報を捉えていたとしても看護診断に気づけなかったりする。だから、教員は学生が収集した情報をよく聞いてみて、「あなたの考えだとこの看護診断につながるよね」と道筋を作る手助けをしています。 学生がよく使う看護診断については、講義中にしっかり教えます。各看護診断の定義は、学生からすると難しいので噛み砕いて説明したり、診断指標や関連因子の補足説明をしたりして、学生に「看護診断ハンドブック」に直接書き込みをさせています。そうすると、看護診断以外の表現でないと問題を表せないといった学生に出会うことはありません。
実習中の学生の時間と気持ちに余裕を持たせることです。例えば、できるだけ実習記録のフォーマットを増やさない。実習という看護の実践を経験できるせっかくの場にも関わらず、実習記録のせいで眠れない、という状況を作りたくない。患者にケアをして、「自分も役にたてた」という1番重要な看護の喜びの体験を増やしてあげたいんです。 未だに日本の看護過程教育は現在の医療状況に合っていないと感じています。以前は在院日数が長かったため、患者のデータを沢山とれて、アセスメントもじっくりできた。今は在院日数が短くなり、レポート内容を増やしてしまうと間に合わなくなってしまう。だから、統合アセスメントは関連図で代用するなど、できるだけ実習記録はシンプルにしています。 また、本学の基礎看護学実習Ⅱでは、初学者が最初から患者を“全人的にみる”のは難しいので、アセスメントはゴードンの機能的健康パターンの健康知覚-健康管理パターンから認知-知覚パターンまでの6パターンまでとし、記録する量を減らしています。学生が患者を受け持つ期間は2週間なので、その間に心理社会的な情報がとれたら、心的適応機能パターンを埋めて看護計画に盛り込んでいくように、と学生に伝えています。多くの学生は、実習が終わるまでには、心的適応機能のパターンのほとんどがアセスメントされています。 また、2年生後期の時点で学生が履修済みの看護技術は転倒転落予防や清拭、洗髪、歩行訓練など。身体的なパターンをアセスメントすれば、看護計画を立案することができる。もちろん心的適応機能のパターンを軽視しているわけではなく、まずは学生ができるところから看護過程の展開をやってみよう、という考えです。
▼長崎大学の関連図の書き方に関するレジュメの一部 関連図をどの順序で何を書いていけばよいか、このレジュメを見るとひとめでわかる。
コミュニケーションスキルが低い原因は、学生によってさまざまなので、教員が学生をアセスメントすることが大事です。学生がナースステーションに帰ってきたら患者とどんな話をしたか、それに対してどんなことを考えたかを必ず聞き取るようにしています。聞きたいことが聞けない学生には、教員の臨床経験から提案します。場合によっては教員が一緒に病室に出向き、自然な会話の流れで学生が聞きたかった内容を患者から聞き出すのを学生に見せます。一度見せると「なるほど」となってくれますね。また、記録用紙を埋めるために情報収集するのでなく、看護するうえで必要なのは、患者のもつ病の物語を知るという視点の重要さを学生に伝えるのも大切です。
学生は、看護過程で機能的健康パターンを使った情報収集や看護診断の検証といった細かな思考過程がまだ身についていないといえ、“患者さんがこうなりたいと思っている”とか、“こうなってほしい”とか、そういった大まかな視点は考えられていることが多いです。学生の記録上に出てきていない思考を、教員がそこを引き出してあげる。そのやりとりの中で、そのために必要な情報はなに?と看護過程を逆回りしていく形で教員が発問してあげると、うまく展開できることがあります。なにごとも理想像があって、それにむけて解決策を考えたりするじゃないですか。それと同じかなと。 看護過程を順番に看護診断、看護成果、看護介入と順番通りに回そうとすると止まってしまう学生にはこのやり方がよいかもしれません。記録用紙を見ながらだと混乱してしまう場合は、あえて「記録用紙を見なくていいよ」と伝えて、「あの患者さんに必要なケアは何?」と聞くと、患者に必要なケアを言えたりします。あとは、機能的健康パターンの特徴を知る必要があると思います。ひとつひとつのパターンの記録用紙を埋めるための情報収集するのではなく、患者の“生活を理解する”ことを主眼に置かせる必要があります。食事をしたら排泄をする、活動したら休むというような、生活の視点で情報収集をすると、患者から容易に情報多取れるようになると思います。
個別性の出させ方には工夫が必要ですよね。本質は、看護過程は“仮説検証型の問題解決”である、ということかと思います。一度立案した看護計画をやってみて、それで違ったら修正する。その違いを検証することで個別性の気づきにつながる。例えば、基礎看護技術の講義では、転落予防や環境整備、清拭、洗髪といった技術を学生に手順書(本学では、技術ノートと読んでいる)にしてもらいますが、基礎看護実習Ⅱではまずその技術ノートを学生に印刷させて持って来てもらいます。 個別性を考える前提として、ケアの一般的な手順をまずおさえることが大事だと思うのです。そこに、看護技術Ⅱ必要な、原理・原則、根拠などが含まれているからです。技術ノートに記述されている一般的な手順を学生がふまえたうえで、看護師さんに受け持ち患者さんに対してケアをしてもらい、「看護師さんの工夫を見てきなさい」と学生に伝えます。そしてそれを看護計画に追記させます。一般的な手順と違う部分や看護師さんの工夫を考えることが、個別性を考えることにつながるのです。そして一般的手順に、看護師さん達が行っている工夫、自分が実施した際に気づいた修正点を踏まえて、追記・修正ができたら、学生にケアを実践してもらいます。
私は、学生に失敗体験をさせるということを重要視しています。先ほども言ったように看護過程は“仮説検証型の問題解決”なので、学生は自分で考えた看護計画をやってみて、その結果を修正することを繰り返すのがよいと考えます。初めての実習では失敗することがあって当たり前です。もちろん患者に害があってはいけませんので、教員が実施させるか見極める必要がありますが。学生が考えたことでとりあえず進めて結果を振り返らせ、自分の考えたことが正しかったかを考えさせる。教員はそこから評価します。学生が考えたことを教員が最初から修正したり教員の考えに学生を誘導したりすると、学生が納得して進めなくなってしまう。失敗体験のなかで学生自身に気付いてもらうと、学生も納得できます。看護過程はいきなり正解を出さなければいけないのではなく、やってみて評価して修正していくことを教員が理解していないといけません。看護過程の指導にはいろいろな課題が多いと思いますが、一緒にがんばっていきましょう。
(聞き手・撮影 編集部)
永田明先生PROFILE 長崎大学医学部保健学科看護学専攻 准教授 −− 日本赤十字看護大学大学院修士課程成人看護学専攻修了、金沢大学大学院医学系研究科保健学専攻看護科学領域博士後期課程終了、新潟大学医学部保健学科看護学科助教、愛媛大学医学部看護学科助教、天理医療大学医療学部看護学科講師を経て、2015年より現職。
永田明先生の主な著書 ・質的看護研究の基礎づけ(看護の科学社) ・いのちを伝える臓器移植看護(メディカ出版)
イメカラシリーズ
看護がみえるvol.1 基礎看護技術 第2版
レビューブック保健師2025
クエスチョン・バンク保健師2025
クエスチョン・バンク2025
クエスチョン・バンクSelect必修2025
レビューブック2025
看護がみえるvol.5 対象の理解Ⅰ
なぜ?どうして?zero2023
【WEB公開】INFORMA for Nurse 2022春夏号
看護がみえるvol.4 看護過程の展開
看護初年度コレダケ -生物,数学,物理,化学,ことば-
看護がみえるvol.3 フィジカルアセスメント
看護がみえるvol.2 臨床看護技術
看護がみえるvol.1 基礎看護技術
看護師国家試験のためのゴロあわせ集 かんごろ
ビジュアルノート
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