看護過程を学ぶうえで「個別性」というキーワードは非常に重要です。なぜなら、看護過程は患者さんへ「個別的な」看護を提供するために行われるからです。抽象的な言葉であるためとっつきにくいですが、書籍『看護がみえるvol.4 看護過程の展開』で紹介している自然気胸の患者さん(Yさん)と直腸癌の患者さん(Aさん)2人の事例を見比べて、具体的な内容に落としこんで「個別性」を理解してみましょう。
YさんとAさんは、ともに「不眠」という看護診断が導かれました。看護診断名は同じでも、原因が全く異なります。Yさんの不眠の原因は、自然気胸の治療によるドレーン挿入の違和感でした。一方で、直腸癌の手術を目前にひかえたAさんは、ストーマ造設による生活の変化の不確かさに関する不安が原因です。
また「不眠」の所見にも違いがあります。Yさんは鎮痛薬を使って入眠できたものの、午前3時に目が覚めた以降眠れていません。一方で、Aさんは癌の診断以降、眠れない日々が続き、考えごとから入眠しづらくしばしば中途覚醒もみられます。
まさにこの違いが個別性を示します。
この個別性は、それぞれの看護計画によく表れています。同じ「不眠」でも、原因や問題を示す所見が異なるからこそ、それぞれの看護計画や看護介入の内容が全く異なってくるのです。Aさんはストーマ造設に伴う不安があることに対し、思いを傾聴するという介入は効果的があると考えられます。しかし、Yさんに眠れないことについて思いをいくら傾聴しても根治的な介入にはなりませんよね。
他にも、書籍ではAさんの看護問題として「肥満に関連した手術部位感染リスク状態」を挙げています。一方で,Yさんも胸腔ドレーン挿入による「感染のリスク」を想定できますが、Aさんのような肥満はなく、喫煙量もさほど多くなく栄養状態も保たれているため「感染のリスク」を挙げませんでした。このように、“Aさんは肥満だから” 感染徴候がみられないよう介入する、といったことも個別的な介入といえるでしょう。
患者さんの「個別性」をとらえるには、適切なアセスメントが重要です。また、複数の患者さんを受けもつことで初めて「個別性」とは何かがわかってくるはずです。多くの経験を経て理解を深めていきましょう。
(『看護がみえるvol.4 看護過程の展開』 p.358より一部改変して掲載)
第1版 B5判 380頁 定価(本体3,300円+税) ISBN 978-4-89632-801-1 発行日 2020-06-30
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