同じ健康上の問題を抱えている患者さんでも、その原因の違いによって介入する職種が異なります。次の3人の患者さんは「便秘」という同じ健康上の問題を抱えています。彼らの例から介入者の違いについて考えてみましょう。
Tさんの「便秘」の原因は、水分摂取量の不足で、その背景には「トイレが大変」という日常生活活動(ADL)の問題や、医療者への遠慮という誘因があります。この場合、原因に介入するのは看護師が適任です。つまり、この健康上の問題は看護問題です。「水分摂取量の不足が便秘の原因になることを説明する」「水分摂取量の目標を決めて、達成方法をTさんと一緒に考える」「トイレ介助を遠慮しなくてよいことを説明する」「ベッドサイドに尿器を置き、トイレまでの移動が大変な場合に使用する」などの介入が考えられます。 Fさんの「便秘」の原因は、腫瘍が腸管を閉塞していることなので、原因を取り除けるのは医師だけです。つまり、この健康上の問題は、医師が主に介入する問題です。だからといって「看護師は何もできない、何もしなくていい」と考えてはいけません。例えばF さんが「便秘」によって強いストレスを感じ、看護師に話を聞いてもらいたいと思っているとしたら、どうでしょう? 精神的な苦痛という「人間の反応」は看護問題であり、看護介入が必要です。 Cさんの「便秘」の原因は、栄養摂取内容が糖質に偏っており、食物繊維が不足していることです。糖尿病があるので、医師の指示のもとに糖尿病療養指導士や管理栄養士による専門的な栄養指導を行う必要があるでしょう。看護師は、不適切な食習慣の背景にどのような生活状況やライフプロセスがあるのかを明らかにし、改善すべき点があればCさんと一緒にその改善方法を考え、Cさんが退院後も適切な食習慣を続けられるように援助する役割が求められます。つまり、この健康上の問題は協働問題です。 このように、看護師は看護問題だけを把握すればいいわけではありません。Fさんの「便秘」のように、看護師が介入できない健康上の問題であったとしても、それが原因・誘因となって生じている問題は、介入できる看護問題である場合もあります。そのため、全人的に「人間の反応」を解釈、分析、判断し、その関連性を把握する必要があるのです。
(『看護がみえるvol.4 看護過程の展開』p.115より一部改変して掲載)
第1版 B5判 380頁 定価(本体3,300円+税) ISBN 978-4-89632-801-1 発行日 2020-06-30
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