NANDA-I看護診断には「急性疼痛」という看護診断があります。医学用語としての急性疼痛には、ケガなどの組織損傷に伴う痛みだけでなく、術後の疼痛も含まれます。さて、みなさんが、手術を目前に控えた患者さんを受け持ち、ゴードンの11の機能的健康パターンの認知- 知覚パターンにおいて疼痛をアセスメントするとします。そのとき「きっと術後は痛みが生じてしまうだろうから、急性疼痛のリスクを挙げた方がいいかも」と考える人は少なくないのではないでしょうか?
看護過程は患者さんに個別的な看護を提供するための思考過程であり、たしかに痛みの感じやすさには個別性があります。患者さんが痛みにとても敏感だったり、過去にも手術を受けたことがあり、その経験から痛みへの恐怖心が強かったり、必要以上に不安が強かったり…このような個別的な危険因子が影響してきます。まさにそういった個別的な危険因子を発見することができたら、なおさら急性疼痛のリスクを考慮した方がよいと考えますよね。
しかし、NANDA-I 看護診断に「急性疼痛」はあっても「急性疼痛リスク状態」はありません。なぜないのでしょうか。
そもそも術後疼痛の一般的なピークは術後9~13時間程度といわれ、全身麻酔が切れてきたら、ある程度の痛みが生じてしまうのはある意味当然といえます。書籍『看護がみえるvol.4 看護過程の展開』事例に登場するAさんが受ける直腸切断術も、腹部正中創と会陰創、ストーマ創と3ヵ所に創ができるうえに、術後のドレーン挿入も加わり、術後に痛みを生じるかもしれない…ということは容易に想像できますよね。
でも、事前に痛みが生じることが想定されているのであれば、標準的な対応やケアがもうすでにあるはず…その通りです。痛くなってから対処するのではなく、患者さんが痛みを訴える前に鎮痛薬を投与するなどして、適切な疼痛コントロールが行われるように、各病院施設で標準的な対応が決められています。
ここからは推測になってしまいますが、NANDA-I看護診断に「急性疼痛リスク状態」がないのは、術前からまだ生じていない痛みを想定し看護診断を挙げて個別的な看護を考え、看護介入を実践するよりも、まずは痛みが強まらないようしっかりと疼痛コントロール(鎮痛薬投与)を行うことが第1優先だから、ではないでしょうか。
もちろん、手術が終わった後に、疼痛コントロールをしているにも関わらず、上で述べたような個別的な原因・誘因によってその痛みが増強してしまっている場合には、看護師が原因・誘因に介入できるかを考えた後,看護診断として「急性疼痛」の立案を考えてみましょう。
(『看護がみえるvol.4 看護過程の展開』 p.299より一部改変して掲載)
第1版 B5判 380頁 定価(本体3,300円+税) ISBN 978-4-89632-801-1 発行日 2020-06-30
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