最初の基礎看護実習(2年次)では、ゴードンの枠組みを使って、11あるパターンのどこかに焦点をしぼってアセスメントをさせます。2週間で看護過程を展開するとなると、患者さんの変化に追いつけない学生もいる。そのため初めての実習では、介入可能なところに限定してアセスメントするよう指導しています。 3年次後期の成人看護学実習は4週間通しで行い、そのなかで2、3事例を担当し、看護過程を展開するようにしています。実習期間が2週間だと、学生はうまく看護が行えなくても逃げ切れてしまう…。でも、4週間という長い期間であれば複数の事例に向き合わざるを得ない。こうすることで、学生が患者さんの経過や個別性を知り、看護を知る機会を持てるようにしています。 また、看護過程の基礎に関する授業は、これまで2年次に行っていましたが、疾患の知識が身につかないまま看護過程を学ぶと、どうしても実習でうまく看護過程を展開できないという状況が生じました。そのため、来年度から3年次に変更する予定です。
基礎看護学と成人看護学の授業では、アセスメントの枠組みとしてゴードンの機能的健康パターンを使っています。看護問題は原則NANDA-Iを用いますが、診断ラベルに限界があるため、学生自身の言葉を使って表現させることもあります。看護介入にNOC、NICのリンケージを使うことは勧めていませんが、アウトカム(成果)の設定にはNOCを参考にすることはあります。ちなみに、私個人の意見ですが、ヘンダーソンを使うのは非常に難しいと感じています。ヘンダーソンは、基本的欲求に対して行う看護を提示していますが、アセスメントの枠組みを示してはいません。つまり、看護にたどり着くための具体的なアセスメントの視点は教員が検討する必要があります。そういった理由からも、ゴードンが使いやすいと感じています。
やはり、患者さんからどういう情報を収集してきたらいいのか分からない学生が多いですね。そんなときは“まず枠組みから入る”ということを強調しています。枠組みから入ることで、“純粋な気持ち”でみえるところがなくなってしまうかもしれませんが、やはり学生は初学者。“入れもの”がない状態で情報収集することは難しいのです。だからまずはゴードンの枠組みをしっかり教えてあげることを意識しています。 それと同時に教員がすべきなのは、まずゴードンの著書を読み、各パターンの定義と内容を徹底的に学ぶこと。そしてそれを各疾患に応用させていくことです。たとえば、骨折した患者さんと糖尿病患者さんとでは生活管理の期間がまったく異なりますよね。そうすると情報の解釈や判断、フォーカスすべき点も違ってくる。学生を指導するためには、対象の疾患、治療法、発達段階を理解し、各疾患に応用できる能力も求められると思います。
アセスメントとは「問い」を設定して「答え」を出すことだ、と学生に説明しています。「問い」とは、たとえばゴードンの機能的健康パターンにある“健康知覚-健康管理パターン”の「自分(患者さん)の健康状態を正しく認識しているか」です。この問いの答えを出すために、情報収集してアセスメントをするのだと。
まず、検査データのアセスメントがネックでしょうか。1つのデータから1つの解釈や分析しかできないことが多いです。たとえば、患者さんの術後ヘモグロビン値が低かった場合、「貧血である」だけではなく、手術前・手術中はどうだったか、といった視点も重要ですよね。情報を深掘りできるか否かは、学生によってさまざま。深掘りが苦手な学生に関しては、学生が書いたアセスメント用紙に赤ペンで疑問を投げかけます。答えを書いてしまうのではなく、「これはどういう意味?」「これはどうして?」などと、学生が自分で考えられるように問いかけることが大切です。これを積み重ねていくことで学生に“アセスメントする”ことを学んでほしいと思っています。
重要なことは2つ。1つは学生が考えたアセスメントを指導するとき、患者さんの何を判断するために、どういう情報が必要か、事前に教員自身が理解していなければならないこと。もう1つは、学生それぞれの得手不得手や、学習段階のどこにいるのかを見極めていくこと。ただ均一的なアドバイスをするだけでは、一定のレベルに到達していない学生にとっては無意味になってしまいます。たとえば資料を探せない学生には、「この本のここに疑問点の答えが載っているよ」と文献の該当箇所を直接見せることが必要なときもあります。
やはり多いんですね。実は、参考文献を探す練習も授業で行うようにしています。疾患に関する知識や看護、検査値など目的に応じて必要な情報が得られる本はどれか、またその本のどこを見たらいいのかということも学習するように、と学生には伝えています。
当校では、ゴードンの各パターンでアセスメントして、それぞれ考えられる看護問題を一旦抽出させます。その後、統合アセスメントで、その問題を本当に取り扱うのか、問題同士を合体させることができるか、などを判断させるという流れで行います。慣れればパターンごとに看護問題を抽出せずとも統合できるようになりますが、初学者の場合は、まずパターンごとに行ったほうが理解しやすいと思います。 その際、関連図も書かせます。関連図の理想は、病態と生活が合体していること。「生活背景→原因→現在の患者さんの状態→成り行き」をベースとして作る。疾患のことだけになってしまう場合は、意識的に心理面・社会面を盛り込むよう指導しています。
看護診断のラベルを決めることはできても、危険因子・関連因子をふまえて看護問題を表したり、優先順位をつけたりすることが苦手な学生が多いですね。特に急性期の場合は、患者さんの状態が日々変わるなかで、今日の優先順位は何かを考えるのが難しい。それを考えるのが苦手な学生には、患者さんやそのご家族と、どこを目指すのか話し合うよう伝えますね。ゴールがどこなのか、そこに到達するために何が今問題なのか…、先を見て逆算させたうえで優先順位をつけるよう指導します。
まず、NANDA-Iの基本である3つの型(問題焦点型、リスク型、ヘルスプロモーション型)をしっかり理解してもらいます。今、健康な状態か否か、今後リスクがある状態か否か、より健康的に良い状態になりたいか否か…、これらの型に応じてその原因に介入する、というのが看護介入の基本です。この仕組みを理解しないままに看護計画を立てようとすると、看護問題と成果がずれたり介入がずれたりしてしまいます。でも、仕組みが頭に入っていれば、どんな問題にも対応できる。実際、学生に、本質である看護問題と計画・成果目標の連動を伝えると、しっかり修正できるようになります。教員側も、この基本を常に頭に入れて学生を指導することが大切だと思います。
私としては、学生の立てた看護計画に対して最初から“個別性”を求めるのは酷だと感じています。似たような疾患の患者さんを何度か受け持って初めて、患者さんの個別性が分かるものです。そのため当校では、できる限り似た疾患の患者さんを2度受け持たせるようにしています。それが難しい場合は、似た疾患の患者を受け持った学生の体験を話し合わせて、個別性を学ぶ機会を与えています。このような比べる機会を与えて初めて、生活背景や心理面、機能の状態によって生じるリスクの有無などが理解できるようになっていくものです。
文科省が提示している到達目標を達成できることが第一ですが、さらに学生が実習の現場を経て自分自身をどう意味づけしたかを大事にしています。学生それぞれが自分の課題に気づけるか、ということが重要なのです。ここでいう課題に、学習能力の向上は含まれません。 看護は対人関係が重要ですが、そこに課題を抱えている学生は少なくありません。成人看護学実習にいたっては、4週間行うわけですから、ここに悩む学生は体調を崩すことすらある。学生はまだ成長段階ですから、このときに看護師に向いていないと教員が判断するのは早いこともあります。実習で自分の課題に気付いた学生が、数年後看護師になり成長した姿を見せてくれると、学生の時点では成長の途中だったんだなと実感しますね。教員はそれぞれの学生が、学習段階だけでなく成長段階としても今どの段階にいるか見極めることが大切だと思っています。
これまでも何度かお話しましたが、まずは教員が基本をおさえること。それを大事にすれば、看護過程の指導は決して難しいことではありません。私がベースにしていたのはアルファロの著書「看護過程と看護診断」です。これを1度しっかりと勉強するとよいのではないでしょうか。どういうツールを使えば看護過程を展開できるのか、自分で一度やってみる。そうして教員側がしっかりと理解できればきっと大丈夫だと思います。これからも看護教員として一緒にがんばっていきましょう。
(聞き手・撮影 編集部)
石川ふみよ先生PROFILE 上智大学 総合人間科学部看護学科 成人看護学 教授 ーー 弘前大学教育学部特別教科(看護)教員養成課程卒業、筑波大学大学院教育学研究科カウンセリング専攻修了、大阪大学大学院医学系研究科保健学専攻単位取得後退学。埼玉県立衛生短期大学助手、東京都立医療技術短期大学助手、東京都立保健科学大学講師、茨城キリスト教大学准教授、東京工科大学教授を経て、2014年より現職。
石川ふみよ先生の主な著書 ・看護過程の解体新書(学研メディカル秀潤社) ・アセスメント力がつく!臨床実践に役立つ看護過程(学研メディカル秀潤社) ・高次脳機能障害をもつ人へのナーシングアプローチ(医歯薬出版) ・リハビリテーション看護(学研メディカル秀潤社) ほか
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